王道の節税対策は結局のところ二つの方法に集約されると考えています。ひとつは「課税を受ける対象を変更する」こと、もうひとつは「税率の差異を活用する」ことです。
「名義変更プラン」保険の仕組み
会社経営者向けに、「課税対象の変更」と「税率の差異の活用」の両方のメリットを併せ持った節税商品があり近年特に人気となっています。それは、低解約返戻金タイプの逓増定期保険というものです。この保険商品の特徴は契約当初数年間(3年から5年)の解約返戻率が極端に低く抑えられており、その後一気に返戻率が上昇するというところにあります。
この商品を使い、合法的に会社のお金を少ない税金で個人に移転させるため以下のようなスキームが使われています。
1. 当初は法人で保険に加入し、支払った掛け金の一部を経費化する。
2. 解約返戻金が上昇する直前に法人から個人(社長など)に契約名義を変更する(法人から個人に保険を売却する)。
3. 名義変更する際の価格は解約返戻金相当額(今まで会社で支払った保険料の20%以下)のため、法人は保険積立金として計上されている金額と売却額との差額を大きく損失として計上できる。
4. 個人は少しの期間保険料を支払い、急激に上昇した解約返戻金を受け取る。受け取った後、保険料として支払った金額(法人からの買取った額+自分自身で支払った保険料)と受け取った解約返戻金との差額については税務申告する必要があるが、その所得は一時所得として計算される。
簡潔に言うと、法人として受け取るべき将来の利益を個人(社長)に移転させ、かつ、その利益には少ない税金(一時所得は2分の1課税)しか課税されない、という方法です。
俗に「名義変更プラン」と呼ばれていたこのスキーム、こんなうまい話があって良いのか、税務調査で否認されるのでは、など専門家の間でも疑問視されながらも販売され続け、人気を博していましたが、ついに国税当局によりメスが入れられることになりそうです。
国税庁による課税方法の見直し
2021年3月、国税庁は生命保険各社に対し法人契約の定期保険について法人から個人に名義変更した時の保険評価額の見直しをする検討に入ったと報告しました。
どのような方法で課税強化されるのか今のところ明らかではありませんが、噂されているところによると、法人から個人に名義変更するときの保険評価額を今までの解約返戻金相当額から帳簿上の資産計上額に変更するという見直しのようです。
これまでも生命保険会社は現行の法律の抜け道を狙った節税商品を開発し、国税庁は税制改正によりその抜け道を塞ぐといういたちごっこが繰り広げられてきました。最近では2019年2月に大規模な保険制度のルール変更があり業界では「バレンタイン・ショック」などと言われましたが、今回の見直しは「ホワイトデー・ショック」とささやかれています。
今使えている節税策が将来も変わらず使えるという保証はありません。常に税制改正の動向に目を配っておく必要性を改めて感じています。