【孫子の兵法】
「孫子の兵法」では「百戦百勝は善の善なる者に非ざるなり。戦わずして人の民を屈するは善の善なる者なり」と教えています。日本の戦国時代でも本当に強い武将は「戦わずして勝つ」ことを目指しました。そのために強固な城を築き、外堀・内堀を作って容易には敵が攻めてこられない体制を整えたのです。
私は良い税務調査対策も同じようなものだと考えています。一旦争いになってしまえば、たとえ最終的に申告是認処理を勝ち取ったとしても調査は長期化し、その間対応に追われ、時間的なロスが発生し、さらには不愉快な気分でストレスを抱えたまま事業を行っていかざるを得ません。今回の調査を乗り切ったとしても「問題のある会社」という烙印を押されてしまう可能性もあります。
税務問題を争いの土俵に上げてはいけないのです。土俵に上がってしまえば税務当局は総力を挙げて何とか課税する方向に持っていこうと考えます。それが調査官としての職務であり本能だからです。
ちなみに税務調査で国を相手に戦った場合、どれくらいの勝ち目があるのでしょうか。課税処分に不服があるときには独立した中立的な立場に置かれている国税不服審判所に審査請求をすることが出来ます。審査請求に対する裁決になお不服があるときは裁判所に訴えを提起することになります。
審査請求の結果はどのようなものでしょう。平成29年度、審査請求の処理件数は2,475件、そのうち納税者側の主張が何らかの形で受け入れられた件数は202件(全部認容54、一部認容148)でその割合は約8%にすぎません。不服を申し立てたとしても92%は認められていないのです。長い時間とコストをかけて争い、その挙句に負けてしまったのでは目も当てられません。
【最良の税務対策】
税務問題を争いの土俵に上げないためにどうしたらよいのでしょうか。税務調査で争いになることを恐れるが故に、必要以上に保守的な処理を行って税負担を増やすことではありません。合法的に、より節税できる道を放棄した結果の申告是認では意味がないのです。
税理士はクライアントのことを考え専門家の矜持をもって納税額の最小化を目指し知恵を絞るのが仕事です。その過程でしっかりと法に適合するための理論武装を行い、税務調査でも問題視されない状況を作っておくことが求められます。大人の対応は税務署と戦うのではなく、争う場面自体がないような状態を作り上げるということです。
調査がなければ戦う必要はありません。調査官が一番恐れるのは税務調査を行って、何も間違いを見つけられないという結果です。最終的には「あの会社に税務調査に行っても何も問題が見つからない」「継続してきちんとした処理を行っており、税務調査の必要度が低い」という信用を構築し、税務調査自体が行われない会社にすることこそが私の考える最良の税務対策となります。